本日、2023年3月22日。
いつものように出勤すると事務所内に大音量で響いていたのはWorld Baseball Classic 2023決勝(日本vsアメリカ)
野球だろうがバスケだろうがサッカーだろうが
全て、一切、まっっっったく興味無いため選手も知らなければ何がどう、もわからない。
かつ、テレビが苦手だから音量が気に障って仕事に支障を来たしそうで不安しかない…
おや?でも何となく形だけでもみんなに合わせて画面を見ていると
時折り映るこの監督どっかで見たことあるぞ…?とかなんとか
何だかんだで入り込み、記憶を辿る。(笑)
栗山監督?え?栗山?栗山って、現役時代超カッコよかった…あの?ぇぇええええ!!
まだ確かぜんぜん60代なのにこの変貌ぶり!
ちょいと前まで野球解説者かなんかじゃなかったけ???(相当前らしいですw)
え?ダルビッシュ?
は?あのやんちゃ坊主がえ?もはやチームを牽引する立場に?
ふゎーっマジか。
ひゃー、最年少は20歳。
そりゃダルビッシュも堂々の先輩になるわ…
成人したばかりだなんてうちの四男と同じ歳じゃん。
…とかなんとかひとしきり楽しませてもらった。
で、試合は素晴らしかったし。
(もはや素晴らしいだなんて軽々通り越して、なんか神がかってすらいたよね。)
何あのラストシーン、”1点差9回のチームメイト対決”打ちとる瞬間見ちゃったわよ。
はあ、みんな良くこの重圧の中で各々出し切ったよなぁ。
まあなにしろとにかく素晴らしかった!
ってなことでウキウキと帰宅するわたし。
さて。
「ただいまー」と声をかけるもなんかおかしいぞ
いつもならドタバタと駆け寄って来る末子がいない。
今日は小学校の卒業式だったせいで在校生はおやすみだったから
5年生3年生のふたりにお留守番をさせていたのが気がかりで
高校の執行部の会合をぶっちぎってまでとっとと帰ったのに、いない。
聞くと、今日のおやつにとわたしがふたりに買っていたチョコレーのうちのひとかけらを
わたしのためにと取っておいてくれたらしいのだけれど
夕方それをお皿に出そうとしたら無くなっていて、慌てた末子が
お金を持っていそうな四女に自分の持っていたマックカードを差し出して
「これをあげるからママにチョコレート買って」と、頼み込んで出かけたんだとか。
ううむ…確かにずっと前
末子がくれたチョコレートを「美味しい!」って食べたけども。
それは末子がわたしに、と
大好きなチョコレートをくれたからこその美味しい、であって
もともとわたしは甘いものが好きじゃない。
そしてそれは家族みんなが知っているってのに。
ていうかマックカードの額面は500円でしょ。
たかだか100円程度のチョコレートを買うために差し出すとは、受け取るとは。
どうなってるのよ末子と四女!
等価交換という価値観を持ち得ない末子の弱点につけ込んだってんなら容赦しないわ…
まだ帰らぬふたりをどうしてくれようかとやきもきするわたし。
…と、そこへ末子の声が玄関から聴こえてきた。
「ママ!おかえり!チョコレート…」末子が言い終える前にわたしはさあ!いざ!あれこれ是正!
「末子!なんで大切なマックカードを易々と他人に差し出すの?」
ママはあんたが大好きなマクドナルド食べるために、あのカード使えば良いと思っていたんだよ。
足りない分はママが出すから好きなの食べなよって思ってたのにどうしてそんなすぐにひとにあげちゃうの?
しかも100円のチョコレートのために大切なカードあげるなんて…およそ対価交換じゃないよね。
ママが四女から取り返して来るからあんたはそれを大切にしまっておきなさい!
そしてドタバタと四女の部屋に向かう。
あんたね。末子はまだお金の価値が解ってないのよ。
500円のカードと100円のチョコレートじゃ等価交換とは言えないよって教えてやりなよ!
…とりあえずあんたが払った100円はママが払うから、カードは末子に返してやりなさ…
と、言い終えるまえに階下からどったんばったん、末子の泣き声が聴こえる。
はぁ。久しぶりのこの空気、絶対誰かが誰かと喧嘩してるやつ。
「誰と誰が何してる!」
慌ただしく階段を駆け降りると床に血が落ちている。
はぁ…もーう!言わんこっちゃない!誰や!
うずくまる末子と状況を説明しようと、しどろもどろの五女。
「六男が、えと、あの、末子が暴れて、んで、えっと…」
クソが!
ママに叱られて泣いた末子を黙らせようとして六男が力技行使しようとしたか?
真っ赤な顔をしてキッチンから出て来た六男に「あんた、何したの?」と詰め寄る。
「何もしてない、末子が暴れたからおさえただけ」
見ると六男も手の甲から血を流している。末子に引っ掻かれたな。
で、床の血痕。
嗚呼。末子の顎がぱっかん割れてるわ。
はぁ…もう。
咄嗟に時計に目をやる。夜間診療ならどこの病院か。整形かまたは救急か…
傷の深さによって判断しないかん、と興奮冷めやらぬ末子のアゴを止血するために当てていたティッシュを退けて傷を開いてみる。
不幸中の幸い。あご先なだけあって皮膚のすぐ下は骨だから派手に出血はしているけれど傷はさして深くない。
止血さえ出来れば縫合要らない程度だ、と判断する。
膝に末子を抱いて止血しながら六男に確認する。「手は出していないね?」
うん、と六男が答える。暴れたから押さえただけ。ぎゅ、っと抱いて抑えたら転んだ。
よし。偉いよ、あんたは判断間違えていない。
男の子はどんなときも決して女の子に手を出してはならない、それを良く思い出したね。
血の気の多いあんたにしてはすごく良い判断だった。偉い。
とにかくそれだけ伝えて、末子の止血をしつつ話しかける。
末子はママにチョコレートあげたかったんやね?
うん、と泣きもせず腕の中で末子が頷く。
で、とっておいてくれたチョコレートがなくなってるのに気がついたから慌てて
買いに行かなくちゃママが可哀想!って思ったんやんね?
うん、とまた末子が頷く。
それで、100円持っていないから四女にマックカードあげる代わりにチョコレート買って、って頼んだんやんな?
うん、と末子がまた頷く。
ごめんね。ちゃんと先にありがとう言わないといけなかったのに
先にわーって怒鳴っちゃったから、ショックだったんよねえ。ごめんね
ぎゅーっと抱きしめると末子が泣き出す。
ほんとごめんね。末子が昨日ママに
「チョコレートあげるからね」って言ってたのママも覚えていたし
そういう末子の気持ちがとても嬉しいよ
ちゃんとそれを伝えずにいきなり叱ってごめん。
うん、と末子が安心したように少し、わたしを見上げる。
それでお金がないから自分の持ってるお金になりそうなものを四女に渡したんやんね?
うん、と末子。
“等価交換”の価値を理解していないどころか
末子はそれをしっかり理解した上で、大切なそれを投げ打ってでも
大好きなママを喜ばせるためにとその手段を選んだんだ、とわたしはやっと理解した。
「ありがとうね末子のその気持ちはママすんごく嬉しいよ」
膝に抱き抱える末子の眉間にキスする。
ママ本当に嬉しいし幸せだよ、ありがとう。
うん、とまた末子。
「でも痛いやろう。傷からいっぱい血が出とるやろう。ママ、それが悲しいわ、痛いよ」
頷く末子。
良いかい、末子良くお聞き。
まだまだあんたはちびっちゃくて、だけどとても大きな優しい心を持っている。
でもな、ママはもっともっと大きいんよ。心配要らん。
チョコレートをあげたかった末子の気持ちをいっぱい受け取る事ができるし
実際にチョコレートなくてもぜんぜん悲しくないから心配いらん。
だってホラ…ママいつも自分だけビール買うんやんな?
少しだけ末子が吹き出して笑う。
ママは強いんよ。ちょっとやそっとでへこたれることはないんよ。
でも、大切な子ども達がこうやってケンカしたりするとかケガするとかは辛いよ。
末子はママを思ってくれたし、四女もあんたのためにコンビニ連れてってくれたし六男はあんたを落ち着かせようとしてくれた。
でもこうやって怪我したし、もし酷かったらママがまた夜ご飯の支度も放り出して病院連れて行かんといけんのやんな?
それは辛いよ。誰も悪くないのにみんな辛い。
だから覚えといてな、ママにとって一番嬉しいのはママが子ども達のために喜ぶことをしてあげられるってことなんよ
チョコレート食べることより
チョコレートあげたいなって考えてくれたあんたの気持ちだけが本当に嬉しいんよ…
つか、そもそもそのチョコレート買ったのママやし!
マックカードもらったのもママが自治会費払ったからやし!
(ここら辺でやっと血が止まり、手当を始める)
はぁ。
やっとみんながなんとなく落ち着いて来た…
なんだなんだと2階から騒ぎを聞きつけて降りて来た五男と三女にも状況を説明する。
末子がママを喜ばせたくて準備したものが無くなって
末子なりのの精一杯で代替品を手に入れるために金目のものを四女に差し出した。
四女もアホやからそんくらい出してあげるよとは言いきらんまま、それを受け取って買い物に連れてった。
ママはそれをわかっていたから、末子が可哀想やからカード返してやってと四女にそれ言ったけど
ママを喜ばせたかった、っていう
末子のいちばん大切だった気持ちをちゃんと受け止めたよと伝えないままだったせいで末子が泣き出しちゃって。
暴れたのを止めようと六男が取り押さえたら怪我させちゃった…
まあ、ママの判断ミスやなぁごめんみんな。
とにかく六男が偉かった。
爆発的な力をねじ伏せるためにもっと大きな力を使うことは容易だったけれどそれをせず、せめて押さえ込むという精一杯の判断をした。
そのおかげでもっと大変なことになるのは避けられた。
ママの心配や対応がこれ以上増えなかったのは六男の判断の成果だと思う。
末子も、いつもどおりとても優しくてママを労ってくれる気持ちがいっぱいでママは嬉しかった。
ママにとっていちばんチビでいつまでも赤ちゃんのような気持ちでつい「そんなことせんで良いんよ!」と言ってしまったけれど
ありがとうをもっと静かに、何より先にしっかり手渡せば良かった。ごめんね、ありがとう末子。
夜、ママが眠りにつくまでなでなでしてくれることも
ママのペットボトルのお水を入れ替えてくれることも
「ママ、おりこうね」って抱きしめてくれることも本当にありがとう。
四女もありがとう。
ママが帰るまでになんとかチョコレート!っていう末子のために動いてくれたね
まあ、100円はおごってあげるよって言ってあげても良かったけど
あんただって無限にお金持ってるわけじゃないもんね。
マックカード、ラッキー!ってなるのは当然だしそれは当たり前だよな…
あーあ。
うちの子達、ちゃんと立派に成長してるな。
それぞれちゃんと自分でない誰かを慮れるようになってる。
自分の力と感情、コントロール出来るようになってるじゃん
みんなしっかり心が育ってるわ
はぁ。
パパ、この場にいられなくてごめん
うちの子たちそれぞれちゃんと大きくなってるよ。
と思ったらなんだか泣けて来た。すんごく嬉しい。
そこでハッとした。
158日前。
やんちゃばかりだった次男坊が
自分の感情より、産まれたばかりの息子のために、と
お嫁ちゃんとの和解を申し出た姿が嬉しくて
こいつ立派に成長してるやんかと思ったら
涙が出て来たと言っていたわたしの大切な同級生。
仕事精一杯やってお金いっぱい持って帰るのが家族のためだと勘違いして
年頃の息子たちのことを嫁ちゃんひとりに背負わせて、俺は子育て間違えてたと悔やんでいたっけね。
あんときのあんたの気持ち、やっとわたしもわかったよ。
わたしも今日またこんな失敗やらかしちゃった。なのに
うちらの子ども達、なんだかんだすんごい良い子たちよねえ。
めっちゃ良い子に育ってくれてるやんね。
それをしみじみ噛み締めるお互いの魂が
それぞれ一点の曇りもなく輝いていたことをわたし達は知っているし
この世でこの子らを守り育てるようにと預かった立場として
互いに健闘を祈り合うことエールを送り合うこと
これこそがほんとに愛じゃない?と思えた。
お互いの魂がずっと別の次元でしっかりひとつになって
それぞれの人生の一番の応援団になっているような気がした。
わたし達の子ども達
わたし達のそれぞれの伴侶
そしてわたし達
みんなみんなMVPやん。
めっちゃ嬉しくて良い一日、本日2023年3月22日。
何処にでもきっといる誰かにとってのMVP
地上に輝く星のような彼らを見つけるためにきっと、何か出来る。
そんなことを感じる夜。