永遠のムーンウォーク
永遠のムーンウォーク

永遠のムーンウォーク

その中には蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、仏の御石の鉢、龍の首の珠、燕の子安貝、全てが納められており
もしそれらを手に入れたならば、ひとは永遠の命を得るらしい。
その扉にはごく原始的な錠がかけてあり
あなたのすぐそばの机の上にはそれのためのと思しき鍵が置いてある

あなたは工業製品の塊である薄っぺらな金属に向かってひたすら五指を躍らせる。
カチャカチャカチャカチャ…脳内の声を現実世界にエクスポートするのだ。

偉人たちの残り香である知性の片鱗を複雑怪奇に編み上げて
その、永遠の命たるものが何であるのか宝とはなにか、から始まり
扉とは?鍵とは?開くとは?について考察を重ね
そのうち深みにはまってそれぞれを分析しそれらをこうしてああした場合に得られる結果とやらに辿り着くまでのあれこれ…そう
エビデンス()とかいうやつらを集積する

幾千幾万もの
可能な限り…(いや、可能とは?限りとは、と迂回しつつ戻りつつ)小難しく聴こえる単なる”音”の繋がりをこれでもかと紡ぎ紡いで
もはやそれが他者と共有されるために生まれたことすらかなぐり捨てて
自分ひとりがいかに賢く優れているかを表現するためだけに羅列し
遂にその、目の前の鍵を使って錠を解こうとする…
とはどういうことなのかとまた問う。

思考するから意思が生まれ意思によって”最良の”と決定づけられた行為を縁起するために神経回路の何処にどんな変化が現れ
それがどのように伝達されて、さて右脚を膝関節からやや手前の上方に引き上げ
それによって移動する重心の在処に無意識のうちに身体全体のバランスをとり…

とかなんとかあーだこーだそーだなんだと打ち込み続け苦悩する
嗚呼こんなに全てを知り尽くしたわたしを越える識者がこの世に存在し得るのだろうか
するとすればそれは神ご自身なのではないか
いや、神とはなにかそれは誰かなのか集団的無意識の重なりに過ぎないのか
では神がもし無いとするならこの現状は…

なんつってる間にひょい、と
目の前のその鍵を誰かが手に取り錠を解いて中の宝をいとも簡単に手に入れて去って行った。

天の国、神、そういうものを夢想する愚か者はまだ考え続ける。
錠を解くために使用したあの鍵は左に回したかのように見えた、だとか
そもそも左は何か右とは何処か、ううむ、ううむ…

ばっかじゃねーの
お前などその扉の前で延々苦悩し続ければ良い
宇宙いっぱいになるまでゴミのような御託を並べるのがお似合いだ
「手を述べて鍵を拾い上げて錠に挿し右に回す」
お前の身体はそれをするためにこの世に出たのではなかったか

思う前に動け。
体験こそがお前の足りなさを補完するだろう

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