足りない、という幸せ
足りない、という幸せ

足りない、という幸せ

むせぶような濃霧から大きな粒の雨へ移ろい
湿り気の多い一日でした
深まる濃い群青色を照らす街灯のあかりに
仄白い霧の粒子が舞い
けろけろけろ、と聞こえる蛙の声はまるで
ふたつ合わせた貝殻を鳴らしているかのようです
何もかもが幻想的すぎて
くせの強い前髪が奔放に跳ねるのもそのままに
こんもりと茂った山があるはずの方へ顔を向けて
お買い物のかごも道路に置いたまましばらくその中に揺蕩っていました

好き放題、しばらく妄想を膨らませたあと
隣に誰もいない寂しさが愛おしくて
“足りない”ことすら足りているのだ、と知りました

いつか会いたい、とか
行ってみたい場所がある、だとか
あれやらこれと想いに耽る
それは今日生きているからこそ抱ける夢で

気忙しく飛んで行く車窓の外の里山のような
目にも止まらぬものばかりの毎日の中にあって
こうしてぽっかりと空いた珠玉の時間は
幸せというのは何かを手に入れたから感じるわけではなく
今ここ、その美しさに気づくだけで得られるのだと教えてくれるようです

さあさあ。
4月もそろそろ閉じて
間も無くわたしの5月がやってきて
あのひとの6月もやってきて
わたし達はきっとどんな夜も幸せなのだと思います
皆さまも素敵な夜をお過ごしください

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