古米たちよ、ありがとう。
古米たちよ、ありがとう。

古米たちよ、ありがとう。

「品薄につき、ひと家庭1袋のみ購入可」と貼り紙をされた空っぽの棚。
まるでそんなこと知らぬ存ぜぬと言わんばかりに踊る「新米入荷!」のポップ

平成にもあったね、米騒動
記録的冷夏の影響でお米が不作だと
外国からほっそりスリムなお米が輸入されました

独特の香りと食感は日本のお米とは少し様子が違ったけれど
政治的なあーだこーだだの陰謀がどーのこーのだの
そんなもん、知ったこっちゃない!と
あるものを頂いた数十年前。

令和の米騒動だなんて言われたついこの間
我が家にもしれっと古米が紛れ込みました

不思議なものね
お米にも命があるのかもしれません
袋を開けて、ザラっと掬って初めて
あ、これはずっと放ったらかされていたお米だ。ってわかるんです
外袋をよくよく見てみれば「令和5年産」
きっとそうね
長い長い時間、倉庫に積み重ねられていたのでしょう

ごめんね、お米。
大地にしっかり根を張って
ぐいぐいと美味しい水を吸い上げて
燦々と降り注ぐ陽の光を浴びて丸々と太ったのに
台風にも負けず、深々とこうべを垂れてその日を待ったのに
刈り入れられ、袋に詰められてそれからどうしたの?
いつ籾殻を脱いで玄米となりいつまで袋で眠ったの
誰かのお茶碗の中でほかほかと蒸気をあげて
はふはふはふ、とお口いっぱいに放り込まれ
鼻からも口からもふふん!と
恵みいっぱいの香りが駆け抜けるのを待ったのに

はい、出番ですよ次の方。と声をかけられたのは次の年
もう、その次の新米が穂の中でぐんぐん育つ頃。
ちぇ、古米じゃんか
ちぇ、香りも粘り気もありゃしない
ちぇ、こんなの食べていられるか!

いけません、そんなことを言わないで。
袋からざっく、ざっくと掬い上げるたび
ごめんね、美味しいうちに食べてあげられなくてごめんね
だけどありがとう今日もおかげでお腹がいっぱいです
せめて土鍋でことこと炊いてあげましょう
ぼわわっと吹き溢れるのもご愛嬌
おこげだってほら良い香り。

あのさ、古米はね
いつかは新米だったんだよ。
一番寂しいのは古米かもしれないでしょう

擬人化して茶化してるって?
なに言ってるの、あなた。
古米に舌打ちするまえに
今日、ご飯を食べられることに心から感謝しなさいよ
新米が出たからもう買ったって?
そう。じゃあ美味しく美味しく炊いて召し上がれ

あの米櫃の中の古米だって
ほんとは新米だったのよ
ありがとう、ごめんね、ありがとうって
そんな気持ちになれたらきっと
古米だってもう泣いたりしないんだと思う

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